モチベーションが高い人と低い人の違いに関する心理学的な6つの発見

目次

3. 全体のまとめ

3.1. 暗黙の知能観は教育することができる

過去の数々の研究によって、知能観こそが、チャレンジングな状況や困難な状況におけるモチベーションや振る舞いパターンを形成する、キー信念であることが分かっています。

当研究は、暗黙の知能観が、具体的にどのようにモチベーションに影響を与えているのか、そしてモチベーションがどのように実際の成績に反映されるのか、それらの関係を証明するものです。

結果、暗黙の知能観が強い生徒たちは、より強くラーニング・ゴールになり、努力に対するよりポジティブな信念をもち、能力のせいにする救いのない解釈(現実逃避)が顕著に減少することが分かりました。結果、困難に直面した際に、より効果的な戦略を模索する姿勢が生まれ、そのために成績が顕著に上昇します。

さらに、暗黙の知能観は教えられることが分かりました。素人の大学生から、短い期間だけ教わるだけで、多くの生徒たちの学習に対するモチベーションや姿勢が劇的に変わり、結果として成績が顕著に上昇したのです。このように暗黙の知能観を促進するだけで、あらゆる面でモチベーションが向上するという事実は、知能観が達成状況における成否を分けるキーファクターであることを表します。

また、当研究は、暗黙の知能観と固定的知能観の人たちの、モチベーションや振る舞いの違いは、チャレジンジングな状況においてのみ見られるという、これまでの発見を支持するものです。

過去の研究で記録されている通り、知能観は、チャレンジングな状況、困難な状況になるまで影響を及ぼすことはありません(※11,12)。そのため、小学校のような、比較的、支援環境が整っており、失敗しにくい環境では、モチベーション的に脆弱な生徒たちも、固定的知能観からくる逃避行動を見せないかもしれません。しかし、彼らが、中学という一つ上のレベルのチャレンジに直面すると、逃避行動が目立っていきます。

過去の発達心理学の研究は、基本的に、個人がどのような心理世界を形成し、その内的世界観が、実際のモチベーションや振る舞い、達成にどういう影響を与えるのかについて、十分な注目を置いてきませんでした(※13,14,15)

だからこそ、この線の研究の必要性は非常に高いと言えます。なぜなら、当研究を含める様々な研究が、内的世界観(知能観)は、教育によって変えられることを証明しているからです。より建設的で生産的な心理モデルは、教育することができるし、それによって、実際により有益な結果を生み出せるようになるのです。

3.2. 当研究の限界と課題

当研究の限界についても触れておきましょう。

  • 実験1と実験2は一つの学校で行われた。
  • 実験2において実験グループは反先入観トレーニングを追加で受けた。
  • 実験2において生徒たちの追跡調査は短期間だけだった。
  • 当実験のモデルは、暗黙の知能観と成績の因果関係を示す序章にすぎない。
  • 実験2は生徒たちだけを巻き込んでいる。

まず、これらの実験は一つの学校で行われました。そのため、ここで発見されたことは同じ学校内では共通して見られるとしても、別の学校になると、その学校に固有の要因によって、暗黙の知能観のトレーニングの効果を強化したり損なったりする可能性もあります。

次に、実験2では、両方のグループが、反先入観トレーニングセッションを受けたのですが、実験グループの生徒たちは、それに加えて、バカやまぬけというレッテルがいかにネガティブな先入観を形成するかというディスカッションを行なっています。結果として、実験グループは、対照グループに比べて、より多くの反先入観トレーニングを受けており、そのことが実験2での発見に影響したかもしれません。介入のセッションで教える内容について、より洗練させれば、より高い効果を確認できるだろうと考えられます。

さらに、実験2では、生徒たちは短期間しか追跡していません。長期の結果をみることも必要です。

そして、当研究は、なぜ、暗黙の知能観をもつことが、良い成績をもたらすのかという関係を示す第一歩にすぎないということです。実験1では、いくつかのモチベーション要素を考案して使いましたが、それらは、あらゆる面で予備的データでしかありません。暗黙の知能観を教えることが、モチベーションをどのように向上させるかについて、より正確に分析するには、より洗練された調査が必要です。

最後に、実験2は、生徒だけを巻き込むものであったということです。もし、介入セッションにおいても、教師の協力や、両親の家庭でのサポートなどがあれば、結果はより強まっていたと考えることができます。それでも、素人の大学生の講義だけで顕著な影響があったという点は重要です。

ここでの発見は、一つ一つは、小さなものです。暗黙の知能観が、個々の小さなモチベーション要素にどのような影響を与えるのか、それが成績にどう影響するのかという相互作用の発見に焦点を置いているからです。これらの発見を過大評価したり過小評価したりしないようにすることが重要です。

しかしながら、小さな効果は重要です。なぜなら、学業的達成は、様々な要素が絡んだ上で結果が決まるものの典型だからです(※16)。さらには、小さな効果サイズのものでも、長期的視点で見ると、非常に大きな影響を及ぼすということは、科学者の間で非常によく見落とされるものだからです(※17,18)

3.3. 結論

なぜ、知能に関する信念の変化が、生徒たちの態度と成績にこのような違いを生み出すのでしょうか。どのように、たった一つの信念が、家庭環境や学校環境といった非常に大きな要因をすらも超越したポジティブな影響を引き出せるのでしょうか。

暗黙の知能観という心理学的アプローチを適用することで、その他の要因を些細なものだと軽視する意図はありません。むしろ、究極的には、社会環境は、人々の信念に大きな影響を及ぼすものそのものです(※19)。実際に多くの研究で、悲惨な経験は、個人の価値観にとってネガティブな影響を与える主な要因であることがわかっています(※13, 15, 20, 21)

参考文献・脚注

  1. Midgley, C., Kaplan, A., Middleton, M., Maehr, M. L., Urdan, T., Anderman, L. H., et al. (1998). The development and validation of scales assessing students’ achievement goal orientations. Contemporary Educational Psychology, 23, 113 – 131.
  2. Blackwell, L. S. (2002). Psychological mediators of student achievement during the transition to junior high school: The role of implicit theories. Unpublished doctoral dissertation, Columbia University, New York.
  3. Bryk, A. S., & Raudenbush, S. W. (1987). Application of hierarchical linear models to assessing change. Psychological Bulletin, 101, 147 – 158.
  4. Bryk, A. S., & Raudenbush, S. W. (1992). Advanced qualitative techniques in the social sciences, 1: Hierarchical linear models: Applications and data analysis methods. Thousand Oaks, CA: Sage Publications Inc.
  5. Aiken, L. S., & West, S. G. (1991). Multiple regression: Testing and interpreting interactions. Thousand Oaks, CA: Sage Publications Inc.
  6. Kishton, J., & Widaman, K. (1994). Unidimensional versus domain representative parceling of questionnaire items: An empirical example. Educational and Psychological Measurement, 54, 757 – 765.Chiu,
  7. C. Y., Hong, Y. Y., & Dweck, C. S. (1997). Lay dispositionism and implicit theories of personality. Journal of Personality and Social Psychology, 73, 19 – 30.
  8. Aronson, J., Fried, C. B., & Good, C. (2002). Reducing stereotype threat and boosting academic achievement of African-American students: The role of conceptions of intelligence. Journal of Experimental Social Psychology, 38, 113 – 125.
  9. Biesanz, J. C., West, S. G., & Kwok, O. (2003). Personality over time: Methodological approaches to the study of short-term and long-term development and change. Journal of Personality, 71, 905 – 941.
  10. Gutman, L. M., & Midgley, C. (2000). The role of protective factors in supporting the academic achievement of poor African American students during the middle school transition. Journal of Youth and Adolescence, 29, 223 – 248.
  11. Dweck, C. S. (2002). The development of ability conceptions. In A. Wigfield & J. Eccles (Eds.), The development of achievement motivation. New York: Academic Press.
  12. Grant, H., & Dweck, C. S. (2003). Clarifying achievement goals and their impact. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 541 – 553.
  13. Dweck, C. S., & London, B. E. (2004). The role of mental representation in social development. Merrill-Palmer Quarterly, 50, 428 – 444.
  14. Levitt, M. Z., Selman, R. L., & Richmond, J. B. (1991). The psychosocial foundations of early adolescents’ high-risk behavior. hJournal of Research on Adolescence, 1, 349 – 378.
  15. Thompson, R. A. (2000). The legacy of early attachments. Child Development, 71, 145 – 152.
  16. Ahadi, S., & Diener, E. (1989). Multiple determinants and effect size. Journal of Personality and Social Psychology, 56, 398 – 406.
  17. Abelson, R. P. (1985). A variance explanation paradox: When a little is a lot. Psychological Bulletin, 97, 129 – 133.
  18. Rosenthal, R., & Rubin, D. B. (1982). A simple, general purpose display of magnitude of experimental effect. Journal of Educational Psychology, 74, 166 – 169
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