関数 1/x は、微積分に重要な4つの関数(ベキ乗関数・三角関数・指数関数・対数関数)のうちのベキ乗関数に当たるものであり、現実世界の現象の中に特によく現れる関数(y=ax・y=x^2・ y=1/x・ y=sin x)の1つでもあります。
面白いものを挙げると、私たち人間の所持金の消費傾向といった人間関係・紛争関係は、この関数で表されます。また、万有引力・原子斥力・クーロン力といった物理現象もこの関数で表されます。要するに 1/x はシンプルでありながら、非常に重要な関数なのです。
ここでは、この重要な関数の積分について詳しく見ていきたいと思います。
1. 1/x の積分
ここでは、まず \(\frac{1}{x}\) の積分の答えを示し、次にそうなる理由について解説します。
1.1. 公式
関数 \(y=\frac{1}{x}\) の積分は以下の通りです。
ベキ乗関数の不定積分
\[\begin{eqnarray}
\int \frac{1}{x}dx
=
\log x
\end{eqnarray}\]
これを視覚的に示したものが以下の画像です。この画像の解釈の仕方については『sin の積分はなぜ -cos ?積分と微分の関係を誰でもわかるように解説』で解説しています。
なお、全区間で定義したい場合は、\(\log|x|\) と書きます。
この積分は、試験で頻出するので余り深く考えずに、そのまま暗記しておくように教わることでしょう。その場合、テストで高得点を取ることが目的なので、それでも良いのですが、実は \(\frac{1}{x}\) の積分はとても面白い関数であり、丸暗記で終わらせるのはとても勿体ない関数でもあります。
そこで、一歩進んで、なぜこうなるのかを考えてみましょう。
1.2. 解説
なぜ \(\frac{1}{x}\) の積分は \(\log x\) になるのでしょうか。
本来、\(\frac{1}{x}=x^{-1}\) なので、以下に示しているベキ乗関数の微積分の規則性に従って、\(\int x^{-1}dx=x^0\) になりそうなものです。
ベキ乗関数の微積分の規則性
\[
\begin{array}{ccc}
F(x): & -\dfrac{1}{2}x^{-2} & -x^{-1}& \overbrace{\log x}^{\ast x^0ではない} & x \ \ & \ \ \dfrac{1}{2}x^2 \ \ & \ \ \dfrac{1}{3}x^3 \ \ \\
& \uparrow & \uparrow & \uparrow & \uparrow & \uparrow & \uparrow\\
f(x): & x^{-3} & x^{-2} & x^{-1} & x^0 & x^1 & x^2\\
& \downarrow & \downarrow & \downarrow & \downarrow & \downarrow & \downarrow\\
f^{\prime}(x): & -3x^{-4} & -2x^{-3} & -x^{-2} & \underbrace{0}_{\ast x^{-1}ではない} & 1x^0 & 2x^1
\end{array}
\]
※この規則性については『ベキ乗関数 x^2 の積分公式と抑えておきたい規則性』で解説しています。
このようにベキ乗関数の積分の規則性の中で、\(x^{-1}\) の積分だけ規則性から外れて、\(\log x\) になります。言い換えれば、\(x^{-1}\)は「実数の世界から虚数の世界への入り口」として機能しています。
\[\begin{eqnarray}
\int x^{-1}dx
&=&
\frac{1}{-1+1}x^{-1+1}\\
&=&
\frac{1}{0}x^0\\
\xrightarrow{\text{変身(虚数の世界へ?)}}
&& \log x
\end{eqnarray}\]
なぜこうなるのでしょうか。
実は、これにはネイピア数 \(e\) が関わっています。『指数関数の積分公式と知っておくべき重要な2つの性質』で解説している通り、ネイピア数を底とした指数関数 \(e^x\) はすべての関数の中で唯一、積分しても微分をしても変化しない関数であり、微積分の世界で非常に特別な立ち位置にあります。
そして、この特別な関数 \(e^x\) と\(\log x\) は逆関数の関係にあります。逆関数とは、ある関数の結果を元に戻す関数です。つまり、\(e^{\log(x)}=\log(e^x)=x\) という関係にあるということです(『逆関数の微分を誰でも理解できるように視覚的に解説』解説しています)。
この特徴を活用して \(“e^{\log(x)}=x”\) とし、両辺を微分すると以下のようになります。
\[\begin{eqnarray}
e^{\log(x)} \cdot \log(x)^{\prime}
&=&
1\\
\Rightarrow
\log(x)^{\prime}
&=&
\frac{1}{e^{\log(x)}}\\
&=&
\frac{1}{x}
\end{eqnarray}\]
参照:「合成関数の微分」
これで \(\log x\) の微分が \(\frac{1}{x}\) であることが導き出されました。
そして、『積分とは何か?最もわかりやすく簡単に理解できるように解説』で解説したように、「微分積分学の基本定理」より、積分は微分の逆演算なので、同時に \(\frac{1}{x}\) の積分は \(\log x\) であるということが確定します。
以上が \(\frac{1}{x}\) の積分は \(\log x\) であることの解説です。
なお、『log(対数関数)の微分を誰でも理解できるように丁寧に解説』では、\(\log x\) の微分を、また別の観点から解説しています。併せてご覧頂くと、理解が深まりますので、ぜひご確認ください。
2. 練習問題
ここでは簡単な3つの練習問題を記しておきたいと思います。これらは暗記することを勧められる場合もありますが、ここまでの内容を理解していれば暗記する必要などなく、すぐに求められるものです。
1/1+x の積分
\(\frac{1}{1+x}\) の積分は \(\log(1+x)\) です。以下の通りです。
\[\begin{eqnarray}
\int \frac{1}{1+x}dx
&\xrightarrow{1+x \ \rightarrow \ t}&
\int \frac{1}{t}dt \\
&\xrightarrow{\int \frac{1}{x}dx=\log x}&
\log t\\
&\xrightarrow{t \ \rightarrow \ 1+x}&
\log (1+x)
\end{eqnarray}\]
1/1-x の積分
\(\frac{1}{1-x}\) の積分は \(-\log(1-x)\) です。以下の通りです。
\[\begin{eqnarray}
\int \frac{1}{1-x}dx
&\xrightarrow{1-x \ \rightarrow \ t}&
\int \frac{1}{t}(-dt) \\
&\xrightarrow{\int \frac{1}{x}dx=\log x}&
\log (-t)\\
&\xrightarrow{t \ \rightarrow \ 1-x}&
-\log (1-x)
\end{eqnarray}\]
1/2x の積分
\(\frac{1}{2x}\) の積分は \(\frac{\log x}{2}\) です。以下の通りです。
\[\begin{eqnarray}
\int \frac{1}{2x}dx
&=&
\frac{1}{2} \int \frac{1}{x} dx\\
&=&
\frac{1}{2} \log x
\end{eqnarray}\]
3. 1/xの積分のまとめ
以上が \(\frac{1}{x}\) の積分です。
冒頭でお伝えした通り、この関数は、金銭の消費傾向や紛争といった人間の様々な行動から、引力や原子が引き合う力といった様々な自然現象に現れる重要な関数です。
そして、これの積分にはネイピア数が関わっており、これだけベキ乗関数の積分の規則性から外れて、まるで実数の世界から虚数の世界への入り口のようになっています。
単に試験問題を解けるようになることだけを求めるのではなく、ぜひ、この不思議で重要な性質について考えてみてください。そうすれば、応用分野に進んでも通用する数学力を身につけることにつながります。
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