7. 実験全体のまとめ
全ての実験をまとめると、能力をほめるのと、努力をほめるのとでは、子供たちのゴール選好や、知能観に対して、異なった影響が顕著に見られます。これらの影響は、実験の早い段階、子供たちがパフォーマンス・ゴールとラーニング・ゴールのどちらかに傾く時から見られます。
成功の後、能力をほめられた子供たちは、自分の能力を示し続けようとしました(=パフォーマンス・ゴール)。一方で、努力をほめられた子供たちは、学習することを重視するようになりました(=ラーニング・ゴール)。
この発見は、それぞれのグループの子供たちの、テストの後の情報選好からも裏付けられます。能力をほめられた子供たちは、新しい学びを得られるラーニング情報を犠牲にして、他の子供たちの成績が分かるパフォーマンス情報を求めました。一方で、努力をほめられた子供たちは、習熟指向で、ラーニング情報を求めました。つまり、能力をほめることは、子供たちをパフォーマンス・ゴールにして、自分の興味関心を追求できるような時でさえ、新しい学びの情報ではなく、自分の自尊心を満たす情報を求めさせるようになるのです。一方で、努力をほめると、子供たちは、学習の機会を得ることに価値を置くようになります。
さらに、能力をほめられた子供たちは、自分の成績は、自分が持って生まれた能力の反映であると認識するようになりました。この傾向は努力をほめられた子供たちには見られません。結果、失敗を経験した時、その原因は努力不足ではなく、持って生まれた能力が足りないからだと考えるようになりました。一方で、努力をほめられた子供たちは、能力不足ではなく、努力不足だと考えるようになりました。
また、能力をほめられた子供たちは、失敗に直面すると、よりネガティブな反応を示すようになりました。課題に取り組む粘り強さや楽しさ(モチベーション)が低下し、結果、実際の成績が顕著に低下したのです。
そして、能力をほめられた子供たちは、自分の成績を他の子供たちに報告する時に過大申告するようになっていました。この結果は、能力をほめられた子供たちは、成績は能力に起因するものだと連想するようになることを示します。つまり、成績が悪いと、彼らの能力が低いのだと考えるようになったのです。努力をほめられた子供たちに、この傾向は見られませんでした。
なぜ、このような違いが見られるのか。
それは能力をほめることは、子供たちに、知性とは持って生まれた固定的な能力であるという固定的知能観を持たせるからです。固定的知能観の子供たちは、学校での成績は、持って生まれた固定的な能力を計測するものだと信じるようになります。そのため、能力をほめられた子供たちが、挫折に直面した時に、モチベーションが低下したことも不思議ではありません。
一方で、努力をほめると、子供たちは、能力は変化するもので、つまり能力とはモチベーション × 知識だと定義するようになります。こうした子供たちは、一回のテストが自分の能力を決定するものとは考えません。そのため、挫折に直面した時でも、必要以上に落ち込むことはありませんでした。
比較グループの子供たちは、「とても良い成績ですね」という成績評価に関することだけをほめられて、「良くやった」とか「頭がいいね」というような努力や能力に関するコメントは与えられていません。比較グループは、全体として、能力をほめられた子供たちよりも、ポジティブなモチベーションを見せました。しかし、努力をほめられた子供たちと比べると、ネガティブでした。この発見は、特に興味深いものです。
これらの発見は、実験によって何度も再現されただけでなく、異なる性別、異なる人種、田舎と都市部の子供たちの間でのものであるということも重要です。
能力をほめることと、努力をほめることの異なる影響は、子供たちの実際の能力レベルとは本当に関係がありません。成績が良かった子も悪かった子も、全く同じ反応を示しました。そのため、すでに高いスキルや能力を持っている子供たちでさえ、現時点でのスキルや能力は劣っていても、努力こそが重要なのだと考える子供たちよりも、困難や失敗に脆弱だと言うことができます。
最初に述べたように、人生とは失敗と挫折の連続です。どれほど優秀な人間でも、成功し続けることはできないのです。そのため、人生が実りあるものになるかどうかの違いは、困難や挫折に直面した時の振る舞いで決まります。
ラーニング・ゴールの人は、困難や挫折を新たなチャレンジの機会と捉え、自分を振り返り、必要な成長を実現しようとします。パフォーマンス・ゴールの人は、困難や挫折に直面すると、非適応的な救いのないパターンを示すようになります。彼らは、決して自分の非を認めることができません。自分の非を認めることは、自らの自尊心にとって、破壊的な脅威となるからです。そのために、自尊心を維持するためならば、他者や組織、社会に破壊的に後退をもたらすことさえ辞さない人物になります。
子供たちにどちらになってほしいか、部下たちにどちらになってほしいか、そして、何よりも自分自身がどちらでありたいか、自問自答し続け、自分自身の振る舞いを自己監視し、改善し続けるという姿勢が重要でしょう。
参考文献・脚注
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