実験5. 補足① 実験者の影響について
ここまでの4つの実験で、ほめ方の違いが、子供たちのゴール選好に強い影響を及ぼすという豊富な発見を見てきました。しかしながら、いくつかまだ必要なことがあります。したがって、実験5では、まだ検証していない2つの仮説を検証します。
まず、失敗の後の、それぞれのグループの子供たちの反応の違いは、実験者が一人であることに起因するものであるかもしれないということです。実験者から能力をほめられた子供たちは、実験者のコメントから、「この人は、能力を一番大事にする人なのだ」と思うようになったかもしれません。その場合、能力グループの子供たちの振る舞いは、自分たちの本心からのものではなく、「実験者は自分たちの能力を計っている」という予想からのものである可能性があります。
一方で、努力をほめられた子供たちは「実験者は努力を測っている」と予想した上で、振る舞った可能性があります。
実際、いくつかの研究では、評価をする人から、「あなたは高い能力を持っている」と言われた子供たちは、実験者は、自分が引き続き良い成績を得つづけることを期待していると感じ、その通りに振る舞おうとする傾向があることが分かっています(※5, 8, 9)。そこで、実験5では、実験者を2人にして、この影響を排除することにしました。
5.1. 実験5の手順
この実験には、46人の小学5年生(女子26人、男子20人)が参加しています。24%は白人で、44%がアフリカ系アメリカ人、30%がヒスパニックで、2%はアジア系アメリカ人です。16人を能力グループ、15人を努力グループ、15人を比較グループに振り分けています。
実験5は、実験1と同じ手順で行います。しかし、今回は実験者は2人です。最初の実験者を紹介されると、すぐに実験室に行き4分間のレーベン漸進性マトリックス知能テストを受けます。そして、そこで成績を告げられ、実験者からほめられます。
次に、子供たちは2人目の実験者に紹介され、2セット目のテストを与えられます。子供たちには、2人目の実験者は、1セット目のテストの成績を知らないと告げられます。加えて、2人目の実験者は、子供たちが1セット目のテストの後、能力、努力のどちらをほめられたのかを知りません。1人目の実験者は、子供たちに影響を与えないように、残りのセッションは全て別の場所にいます。
子供たちは、2人目の実験者から、2セット目の成績が悪かったことを告げられます。その後で、実験の手順は調査 1と同じ流れになります。粘り強さなどを計測して、1セット目と同じ難易度の3セット目のテストを与えられます。
5.2. 実験5の結果
まず、Table1c で見られるように、2セット目のテストの成績が悪い原因をどう考えるかについて、再度、同じ結果となりました。
能力が足りないからだと考える傾向は、能力グループの子供たち(平均20.94、標準偏差7.17)に顕著に強く、努力グループの子供たち(平均7.75、標準偏差9.50)と明確な違いがありました。t検定でも、能力グループと努力グループの間、能力グループと比較グループの間の違いは顕著です努力グループと比較グループの違いは統計的に有意ではありませんでした。
努力が足りないからだと考える傾向も、努力グループの子供たち(平均20.06、標準偏差11.32)に顕著に強く、能力グループの子供たち(平均7.13、標準偏差5.52)と明確な違いがあることが分かります。t検定でも、能力グループと努力グループの間、努力グループと比較グループの間の違いは有意です。しかし、能力グループと比較グループの違いは統計的に有意ではありませんでした。
次に、Table2d で見られるように、問題に取り組む粘り強さなどのモチベーション指標もグループ間で大きな差がありました。
挫折後の課題に取り組む粘り強さでは、能力グループの子供たち(平均3.44、標準偏差1.59)は、努力グループの子供たち(平均4.62、標準偏差1.63)と比べて顕著に低くなりました。能力グループと比較グループ(平均4.56、標準偏差1.26)では似た数値となりました。t検定では、能力グループと努力グループの間、能力グループと比較グループの間の違いは有意です。努力グループと比較グループの違いは有意ではありませんでした。
挫折後の課題を楽しむ力でも、能力グループの子供たち(平均3.92、標準偏差0.95)は、努力グループの子供たち(平均5.19、標準偏差0.82)と比べて顕著に低くなりました。努力グループと比較グループ(平均4.90、標準偏差0.95)では似た結果となりました。t検定では、能力グループと努力グループの間、能力グループと比較グループの間の違いは有意です。努力グループと比較グループの間の違いは有意ではありませんでした。
しかし、1セット目と3セット目の成績の違いは、統計的には顕著とは言えませんでした。これは、実験5 は、実験1(128人)や実験3 (88人)と比べて被験者数が46人と少なかったことが理由としてあげられます。しかし、Figure2c で見られるように、点数の差をグラフ化してみると、同じ傾向があることがわかります。
3セット目の成績で、能力グループでは平均0.50点(標準偏差2.16)低下しており、努力グループでは平均1.00点(標準偏差1.86)上昇しています。比較グループでは、平均0.38点(標準偏差2.16)とわずかに上昇しています。
5.3. 実験5のまとめ
まとめると、この結果は、能力をほめられた子供たちと努力をほめられた子供たちの失敗に対する反応の対照的な違いは、実験者に影響されてのものではないことを示しています。1セット目で成績が悪かったことを告げたられた時、2人目の実験者が1セット目の成績や属するグループを知らないにも関わらず、能力グループの子供たちは、その失敗に対してよりネガティブな反応を示しました。
さらに、子供たちは2セット目で失敗に直面する前に、ゴール選好を計測されたわけではないため、ゴール選好は、後のテストの予期や反応に影響されていません。つまり、努力または能力をほめられた後の、子供たちの反応の違いは、子供たちの、実験の解釈の違いに起因するものであることが分かります。
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