実験4. ゴール選好と知能観の関係
実験4は、実験2を再現すること、そして、そこでの発見を拡張するために行われました。具体的には実験4 では、実験3での、能力グループ(パフォーマンス・ゴール)と努力グループ(ラーニング・ゴール)の対照的な情報選択性向(「ラーニング情報」か「パフォーマンス情報」か)を、さらに細かく調査します。
また、ほめ方が、子供たちの能力に対する考え方(知能観)に、どのように影響するかについても深めて見ていきます。なお、知能観については、『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観))』でご確認ください。
4.1. 実験4の手順
この実験では、51人の小学5年生(女子29人、男子22人)が参加しています。2%が白人で、69%がアフリカ系アメリカ人、29%がヒスパニックです。子供たちは、それぞれのグループに17人ずつ、ランダムに割り当てられています。
まずは、実験2と同じ手順を取ります。次に、子供たちの「知能観」 、つまり、能力は持って生まれた固定的と考えるか、能力は努力によって伸ばすことができると考えるか、のどちらの信念を持つかを調査します。
この調査のため、子供たちは、暗黙の知能観スケールを1(全く同意しない)から6(非常に同意する)までで点数付けするように求められます。このスケールでは、例えば「あなたは知能の量はあらかじめ決まっており、それを変えるためにできることはあまりない」などの質問が提示され、それにどれぐらい同意するかを調査します。
次に、調査3のように子供たちの情報選好を調べます。ラーニング情報か、パフォーマンス情報が書かれた2つのフォルダのうち、どちらを選ぶかを見るものです。しかし、今回は、これは、2セット目のテストに失敗した後ではなく、1セット目のテストに成功した後に計測します。
4.2. 実験4の結果
まず、前の3つの実験と違い、子供たちの達成ゴール(パフォーマンス・ゴールかラーニング・ゴールか)に顕著な違いはありませんでした。また、粘り強さや楽しむ力にも違いは見られませんでした。
結果① ゴール選好は情報選好に影響する
次に、実験4で加えた新たな計測の結果を見てみましょう。以下のFigure3b で見られるように、この調査でも、実験3と同じ結果になりました。
能力グループの76%、努力グループの24%、比較グループの59%が、パフォーマンス情報を選びました。この実験では、これらの情報選好は、1セット目のテストに成功した後に計測されています。
これは、つまり、能力をほめられた子供たちは、それだけで「能力は固定的である」という固定的知能観を持つようになることを示しているという点で、実験3よりも目を引きます。皮肉なことに、自分の成績に最も関心がある子供たちは、有益な学びを得られる情報を犠牲にすることで、ますます、本来の望みである「高く評価されたい」というゴールと反対の環境に、自らを追いやってしまうのです。
結果② ゴール選好による知能観の違い
加えて、Figure5a で見られるように、知能観スケールでも、能力をほめられた子供たち(パフォーマンス・ゴール)は、能力は固定的であると考える顕著な傾向があることが分かります。
能力グループの子供たちのスケールのスコアは、平均4.24(標準偏差1.79)だったのに対して、努力グループでは平均2.19(標準偏差1.52)、比較グループでは平均3.47(標準偏差2.24)でした。統計学のt検定でも、能力グループと努力グループの差は顕著に有意でした。しかし、能力グループと比較グループの間と、努力グループと比較グループの間の違いは有意ではありませんでした。
4.3. 実験4のまとめ
このことから、まず、成功している時であろうが、失敗している時であろうが、パフォーマンス・ゴールの子供たちは自尊心を満たすために、成長の機会を犠牲にして、「パフォーマンス情報」を選ぶことがわかります。彼らは、失敗を経験して、自信が揺らいだために、パフォーマンス情報を選ぶのではありません。どのような状況においても、自尊心を満たそうとするのです。
一方で、ラーニング・ゴールの子供たちは、いかなる状況でも、新しい成長の機会である「ラーニング情報」を求めます。
また、知能観に関して、能力をほめられた子供たち(パフォーマンス・ゴール)は、能力は固定的であると考える強い傾向があることが分かります(=固定的知能観)。一方で、努力をほめられた子供たち(ラーニング・ゴール)は、能力とは努力によって伸ばせるものであると考えます(=暗黙の知能観)。
この結果は、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、自分の持って生まれた能力の確認や誇示を追い求めており、ラーニング・ゴールの子供たちは成長を追い求めていることを示しています。皮肉なことに、この違いが、パフォーマンス・ゴールの人が、最終的に自分が求めているもの(能力への賞賛)から乖離し、非適応的で救いのない振る舞いのパターンを見せるようになる原因なのです。
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