失敗や挫折から学ぶ人と逃げる人の心理学的な2+5つの違い

目次

実験3. ゴール選好による情報選好への影響

実験3は二つの目的があります。一つ目は、実験1で分かったことを再現することです。つまり、能力をほめるのと努力をほめるのとでは、子供たちの動機(パフォーマンス・ゴールかラーニング・ゴールか)と、失敗後の反応に違った結果をもたらす、ということを再現するためです。

二つ目は、子供たちのゴールや関心を異なる新しい方法で調べて、調査を広げることです。具体的には、失敗の後、それぞれのグループの子供たちは、問題をより良く解くことができる情報に関心を持つのか、それとも他の子供たちの成績に関心を持つのか、です。

もし子供たちがラーニング・ゴールなら、成長の機会を求めるはずです。一方で、もし子供たちがパフォーマンス・ゴールなら、能力を確認できる機会を求めるはずです。

3.1. 実験3の手順

この実験には、88人の小学生(女子48人、男子40人)が参加しました。74%が中西部の小さな町の公立小学校の生徒で、26%が北西部の都市の2つの公立小学校からの生徒です。74%が白人で、アフリカ系アメリカ人が8%、ヒスパニックが18%です。29人が能力グループ、30人が努力グループ、29人が比較グループです。

この実験では、能力をほめられた子供たちは、努力をほめられた子供たちと比べて、困難に対して違った反応をするという仮説を検証するために実験1の手順の最後に、二つの計測を追加します。

一つは、能力をほめられた子供たちは、挫折の後、努力をほめられた子供たちよりも、自分の実際の成績を誤って解釈する傾向があるかどうかを見極めるためのものです。3セット目の問題の後、子供たちは、別の州の別の学校から来た子供たちに向けて、自分が正解した問題数を書くように求められます。この成績申告の正確性は、彼らが正しく回答したと考える問題の数から、実際に正解した数を引くことで計算します。

二つは、失敗後に、どの情報を求めるかです。仮説では、能力をほめられた子供たちは、問題をより良く解くための情報よりも、自分の相対的成績を得られる情報を好むはずです。努力をほめられた子供たちは、これと逆になるでしょう。これを見るために、3セット目の問題の後、子供たちに見た目が全く同じ2つのフォルダが提示されます。一方のフォルダには問題を解くための戦略(以下、「ラーニング情報」)、他方のフォルダには平均点が書かれた情報(以下、「パフォーマンス情報」)が入っています。子供たちは、どちらか一つだけ見ることができます。

3.2. 実験3の結果

まずは、実験1の再現です。やはり努力をほめられた子供たちはラーニング・ゴールになり、能力をほめられた子供たちはパフォーマンス・ゴールになります。

以下の Figure1c で見られるように、子供たちのゴール選好は、ほめられ方に明確に影響されています。能力をほめられた子供たちの55%、努力をほめられた子供たちの23%、比較グループの34%がパフォーマンス・ゴールでした。

Figure1c. ほめ方の違いによるグループ毎のマインドセットの違い

また、以下の Table1b で見られるように、能力グループの子供たちは、2セット目のテストの成績が悪い原因を、持って生まれた能力にあると考える傾向が顕著に強く、努力グループの子供たちは、努力不足にあると考える傾向が顕著に強いことも、実験1と同じでした。つまり、能力をほめられた子供たちは、成績は能力の反映であり、努力をほめられた子供たちは成績は努力の反映であると考えるようになる傾向が顕著だということです。

Table1b. グループ毎の、悪い成績を取った原因の違い

次に、失敗を経験した後の、モチベーションも同様でした。以下の Table2c で見られるように、能力グループと努力グループでは、統計的に顕著な差が見られます。

Table2c. 失敗後のグループ毎の問題に取り組む粘り強さと楽しむ力の点数づけの違い

次に、難易度が同じ1セット目の点数と3セット目の点数の違いも、実験1と同じでした。Figure2b で見られるように、グループ間で1セット目の成績に差はなかったにも関わらず、能力グループでは、平均0.37点低下し(標準偏差1.42)、努力グループでは平均1.23点(標準偏差1.50)上昇しました。これは統計的にも顕著な違いです。比較グループでは、平均0.34点(標準偏差2.13)の上昇です。しかし、能力グループと比較グループの差は統計的に有意ではありませんでした。

Figure2b. 失敗を経験する前(1セット目)と経験した後(3セット目)の実際の成績の違い

ここまでは実験1の反復です。次に、実験3で加えた計測を見てみましょう。

結果① 成長を求めるか自尊心の満足を求めるかの違い

実験3では、失敗後に、成績を向上させるための学びとなる「ラーニング情報」と、他の子供たちの成績の平均点が分かる「パフォーマンス情報」のどちらか一方を選べるとした時、能力グループの子供たちは前者を、努力グループの子供たちは後者を選ぶ傾向があるという仮説を立てました。その結果が Figure3a です。

Figure3a. グループ毎のラーニング情報ではなくパフォーマンス情報を選んだ子供たちの割合(2セット目のテストに失敗した後に計測)

このように、能力をほめられた子供たちの86%は、ラーニング情報ではなくパフォーマンス情報を選びました。努力をほめられた子供たちでは、それはたったの23%でした。つまり、77%が学びを得られる戦略情報を選んだのです。なお、比較グループでは、62%がパフォーマンス情報を選びました。

ここから、能力をほめられた子供たちは、自分の自己優越感を満たす情報を選ぶ傾向があり、そのためには学習の機会をも犠牲にする傾向があることがわかります。

結果② 現実を受け止めるか歪めるかの違い

次に点数の自己申告の正確性にも違いがありました。Figure4 で見られるように、能力をほめられた子供たちの38%が、3セット目の自分の点数を誤って、二度と会うこともないだろう他の州の子供たちに伝えていました。

Figure4. グループ毎の実際の点数と違った点数を伝えた子供たちの割合

努力をほめられた子供たちで、点数を誤って伝えたのは13%だけで、比較グループでは14%でした。平均すると、能力グループの子供達は、0.45点(標準偏差1.22)、実際の点数から乖離した点数を伝えていました。これらは、全て、実際の点数より高く伝えられており、つまり、子供たちの記憶違いではなく、明確に過大申告を意図して行われていたことが分かります。

この間、子供たちは、大人が、自分が他の子供たちに自己申告した点数を決して見ないと信じていました。そのため、点数を過大申告しても、実験者にとっての利益にはならないことは分かっていました。

つまり、能力をほめられた子供たちにとって、成績は、自分が持って生まれた能力を示すものであり、そのために、他の子供たちから、能力を疑われないために、点数を課題申告しなければならないという圧力が働くのです。一方で、努力をほめられた子供たちにとっては、成績は必ずしも能力の反映ではないため、意図的に点数を過大申告しようという圧力は小さくなります。

3.3. 実験3のまとめ

まとめると、実験3の結果は、良い成績を取った時に、能力をほめられた子供たち(パフォーマンス・ゴール)は、挫折に対して非常に脆くなる傾向があることを示しています。

パフォーマンス・ゴールの子供たちは、情報選好において、自分を成長させる「ラーニング情報」を犠牲にして、虚栄心を満たす「パフォーマンス情報」を求めます。能力が劣っていると疑問視されないように、実際の点数よりも過大に申告する傾向があります。能力をほめられた子供たちの、このような脆さは、達成状況における粘り強く取り組む力や楽しむ力(モチベーション)にも現れています。

一方で、ラーニング・ゴール子供たちは、習熟の助けとなる「ラーニング」情報を選び、達成状況に置いて、粘り強さや楽しむ力(モチベーション)を保つことができます。また、ラーニング・ゴールの子供たちには、仲間に、自分の実際の点数より高い点数を伝えるというような虚栄心は見られませんでした。これは、現状の自分の能力を正しく理解していることを示します。現状の能力水準の理解は、成長のためにも、非常に重要なものです。

振り返ると、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、成長を犠牲にしてまで虚栄心を満たそうとします。彼らにとって、成績は、持って生まれた能力の証明であり、努力によって、それを向上させることができる、という事実が分からなくなってしまうのです。

一方で、ラーニング・ゴールの子供たちは、虚栄心を満たすことは優先ではありません。成長に主軸を置いているため、成長できる機会を求ます。

なお、なぜ、そうなるかというメカニズムについては、『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観)』で解説しています。

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