失敗や挫折から学ぶ人と逃げる人の心理学的な2+5つの違い

目次

実験2. ゴール選好による失敗時のモチベーションへの影響

実験1の結果は、成功した時に、努力をほめるのと、能力をほめるのとで、子供たちは異なるゴール選好に誘導されること、そのために失敗に対する異なった反応を引き起こすことを示すものでした。

しかし、実験1は、ほめ方によって、成功時のモチベーションにも異なる影響を与えてるのかは調べていません。子供たちは、失敗を経験する前に異なったほめ方をされて一方のゴール選好に誘導されました。そして、失敗の後に、モチベーション(粘り強さ、楽しさ)を測られました。

そのため、能力をほめられた子供たちが失敗に対して脆弱なのは、失敗に先立って能力が重要であると考えさせられたことをプレッシャーに感じて、そのためにモチベーションが低下したからではないか、という疑問が残ります。

そこで実験2では、子供たちが失敗を経験する前に、能力または努力をほめることが、課題に取り組む粘り強さ、楽しむ力などのモチベーション要素にマイナスの影響を与えうるのかを知ることを狙いとしています。

2.1. 実験2の手順

この実験には、小学5年生51人(女子26人、男子25人)が参加しています。北西部の都市の公立小学校の子供たちです。2%が白人で、76%がアフリカ系アメリカ人、22%がヒスパニックです。

子供たちは、ランダムに、能力グループ、努力グループ、比較グループに分けられます。一つのグループは17人です。すべての子供たちが、実験1と同じようにレーベン漸進性マトリックス知能テストを受けます。1セット目のテストの後、子供たちは、また、実際の成績に関わらず80%以上正解したと告げられ、能力または努力をほめられます。ここまでは実験1と同じです。

次に、課題に粘り強く取り組む力、楽しむ力(=モチベーション)を調査します。しかし、今回は、これらは、実験1(2セット目の失敗の後に計測)と違って、1セット目の成功の直後に計測されます。なお、質問の中には、将来の成績への期待を計測するために、「また同じような問題を解くとしてたら、次はどれぐらいよく出来ると思う?」という質問が追加されています。

2.2. 実験2の結果

まずは、以下で見られるように、今回も能力をほめられた子供たちはパフォーマンス・ゴールになる傾向が顕著であることが分かります。

Figure1b. ほめ方の違いによるグループ毎のマインドセットの違い

能力グループの69%が、テストの成績が良かった理由を、能力のためであると考えました。一方、努力グループでは、それは12%だけでした。つまり、努力グループの88%が、テストの成績が良かった理由は、それまでの努力のためであると考えたのです。比較グループでは、能力のためと考えたのは47%でした。この結果は、実験1と完璧に同じです。

次にモチベーション(課題に粘り強く取り組む力、楽しむ力)を見てみましょう。

結果① 成功している時のモチベーションの違い

成功している時には、ほめ方の違いによって、モチベーションに対する影響の違いは見られませんでした。以下のTable2bをご覧ください。

Table2b. グループ毎の問題に取り組む粘り強さと楽しむ力の点数づけの違い(失敗前)

これらの結果は、ゴール選好が違っても、チャレンジが不要な状況では、パフォーマンス・ゴールの人も、ラーニング・ゴールの人も、振る舞いは変わらないことを示しています。能力をほめられた子供たちも、努力をほめられた子供たちも、課題がうまくいった時には、モチベーションは変わりません。

つまり、パフォーマンス・ゴールの子供たちも、ラーニング・ゴールの子供たちも、物事がうまくいっている時には、モチベーションに違いはないということです。

結果② 失敗している時のモチベーションの違い

しかし、失敗に直面している時では、パフォーマンス・ゴールとラーニング・ゴールのモチベーションは顕著に異なります。先ほどの実験1のデータTable2aと、上記の結果①を見比べてみましょう。

Table2a. グループ毎の失敗後の問題に取り組む粘り強さと楽しむ力の点数づけの違い

失敗や困難な状況に直面すると、能力をほめられた子供たちは(パフォーマンス・ゴール)、努力をほめられた子供たち(ラーニング・ゴール)と比べて、モチベーションが顕著に低下しています。

なお、これらの結果から、モチベーションは、失敗前の、自分のパフォーマンスに対する自分自身の期待とは関係がないことも分かります。つまり、パフォーマンス・ゴールの子供たちが見せる失敗や困難に直面した時のモチベーションの低下は、自分に対して持っていた高い期待を満たすことができなかった自分に失望した結果としてのものではないということです。

パフォーマンス・ゴールの子供たちは、失敗すると、「努力しても無駄だ」と考えるのです。

2.3. 実験2のまとめ

繰り返しになりますが、まず強調したいのは、実験1と実験2から、子供たちの失敗後の反応の違いは、自己評価の違いから来るものではないということが分かるということです。

実験1では、2セット目の後(テストで失敗した後)に、1セット目と2セット目の総合的な出来をどう自己評価するかの点数付けアンケートを行いました。そして、自己評価に関してグループ間に有意な違いはありませんでした。実験2では、将来の成績への期待を、1セット目の後(テストで成功した後)に計測しました。結果、ここでもグループ間に有意な差はありませんでした。

つまり、パフォーマンス・ゴールの子供たちの失敗時におけるモチベーションの低下は、自分への高い期待を満たすことができなかった失望からくるものではないのです。ラーニング・ゴールの子供たちは、同じような成績の低下を経験しているにも関わらず、モチベーションの低下が見られないからです。

実験2から、パフォーマンス・ゴールとラーニング・ゴールの失敗に対する反応の違いは、能力をほめられたか、努力をほめられたかによって、自分の成績を持って生まれた能力の反映と見るようになるか、努力の反映と見るようになるかによって引き起こされるということが発見できます。

こうした能力は不変のものか変化するものかという信念の違いを知能観と言います。これについては、『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観)』で解説しています。

この知能観の違いから、ゴール選好の違い、失敗時の振る舞いの違いが生まれます。失敗において、「持って生まれた能力が足りないのだ」と思い込むことによって、「努力しても無駄だ」とモチベーションが低下し、「努力が足りないのだ」と考えることによって、「努力して克服しよう」とモチベーションが向上するのです。

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