助詞「を」の後に読点を打つべきかどうかで悩む人がいる。結論から言うと、この場合は『読点の使い方:良文を書くための四大原則と例外ルール』で解説している四大原則のうち、以下の三つに従えば良い。
- 長い修飾語の間に打つ
- かかる言葉と受ける言葉が離れる場合に打つ
- 読み誤る恐れがある場合に打つ
「を」の後に読点を打つべきであるとか、打つべきでないと、誤ったルールを主張する人もいるが、それは正しくない。上の三つの原則に従って判断すれば、わかりやすい文を作ることができる。
それぞれ詳しく見ていこう。
なお、ここでは「を」に焦点を当てて解説するが、「が」「は」「に」などの他の助詞の場合でもまったく同じことが言える。
長い修飾語の間に打つ
まず修飾語が短い場合、または修飾語を伴わない場合、基本的に読点は打たない。以下の文例を見てみよう。
- ハナコにタカシをタロウが紹介した。
- ハナコにタカシを、タロウが紹介した。
このように修飾語が短い場合や、修飾語を伴わない場合は、読点を打つことで読みにくくなってしまう。
しかし長い修飾語を伴う場合は、その前後に読点を打たなければ、分かりにくい文になってしまう。以下の文を比べてみよう。
- ハナコに、生物学の博士号を持つ将来有望なタカシを、タロウが紹介した。
- ハナコに生物学の博士号を持つ将来有望なタカシをタロウが紹介した。
以上のように、助詞「を」のある・なしに惑わされずに、読点の四大原則に沿って判断すれば良い。
かかる言葉と受ける言葉が離れる場合に打つ
修飾語が短い場合でも、かかる言葉と受ける言葉が離れる場合は読点を打つ。例えば、以下の文があるとする。
- 南国特有の鮮やかな青色の鳥が空を飛ぶ。
この文は、このままで十分にわかりやすい。しかし文脈の都合上、「空を」という語句を文の先頭に持ってきたいとする。つまり、「空を」の位置が、それを受ける言葉である「飛ぶ」と離すということだ。
その場合は、たとえ修飾語が短かったとしても読点を打つべきだ。以下を見比べてみよう。
- 空を、南国特有の鮮やかな青色の鳥が飛ぶ。
- 空を南国特有の鮮やかな青色の鳥が飛ぶ。
読点を打った方が明らかに読みやすいことがわかる。
このように、やはり助詞「を」のある・なしに惑わされずに、読点の四大原則に沿って判断すれば良い。
読み誤る恐れがある場合に打つ
もう一つは、読点がなければ読み誤る可能性がある場合に打てば良い。例えば次の文を見てみよう。
- プロジェクトを厳選の上5名に任せる。
この文は、「プロジェクトを複数の中から厳選して5名に任せる」、「複数名の中から厳選した5名にプロジェクトを任せる」という二つの解釈ができてしまう。
そのため前者の意味なら「厳選の上」の後に、後者の意味なら「プロジェクトを」の後に読点を打つ必要がある。
- プロジェクトを厳選の上、5名に任せる。
- プロジェクトを、厳選の上5名に任せる。
しかし、実際はこうしたケースはほとんどない。なぜなら、上の文はそもそも悪文であり、読点を打つよりも前に文を書き改めることが必要だからだ。悪文だから、不要な読点を打たなければいけなくなるのだ。
例えば、次のように書けば、読点を使う必要がないし、意味もよりハッキリとする。
- 厳選した5名にプロジェクトを任せる。
結論
以上のことから、次のように結論することができる。助詞「を」の後に、読点を打つべきかどうかは、四大原則のうち、以下の三つに従って判断する。
- 長い修飾語の間に打つ
- かかる言葉と受ける言葉が離れる場合に打つ
- 読み誤る恐れがある場合に打つ
しかし、三つ目の「読み誤る恐れがある場合」というのは、そもそも悪文である可能性が高い。そのため、その場合の本当のアドバイスは「『を』の後に読点を打たなければ読み誤るような悪文ではなく、不要な読点を省くことができて、読み誤りの可能性のない良文を書こう」になる。
なお、ここでは「を」という助詞に焦点を当てて解説したが、これは「が」「は」「に」などの他の助詞の場合でも全く同じだ。助詞の後の読点の扱いについて迷ったら、上の三つの原則に従って判断すれば良い。
例えば、以下の文はどの書き方でも問題ない。
- タロウがタカシをハナコに紹介した。
- タカシをタロウがハナコに紹介した。
- ハナコにタカシをタロウが紹介した。
ここで、「タロウが」を「私が震えるほど大嫌いなタロウが」というように、長い修飾語を伴うものに変えたとする。
この場合、本来は「長い修飾語を伴う語句から先に」という修飾語のルールに従うべきだが、ここではそのことは一旦置いておいて、それぞれの文の語順を変えずに分かりやすくするには、次のように読点を打つ必要がある。
- 私が震えるほど大嫌いなタロウが、タカシをハナコに紹介した。
- 私が震えるほど大嫌いなタロウがタカシをハナコに紹介した。
- タカシを、私が震えるほど大嫌いなタロウが、ハナコに紹介した。
- タカシを私が震えるほど大嫌いなタロウがハナコに紹介した。
- ハナコにタカシを、私が震えるほど大嫌いなタロウが紹介した。
- ハナコにタカシを私が震えるほど大嫌いなタロウが紹介した。
これらはすべて、上述の三つの原則に沿ったものだ。
要するに、「を」だけでなく、「が」「は」「に」などの他の助詞の場合でも、読点の使い方はまったく同じであるということだ。この点は、ぜひ覚えておこう。
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