世の中には、失敗や挫折から学ぶ人と、逃げる人がいます。そして、仕事でも、夫婦関係でも、子供との関係でも、長期的に成功し幸福をつかみ取っているのは、失敗や挫折から学ぶ人であるというのが、私たちの共通理解でしょう。
それでは、自分自身はどちらでしょうか。少し考えてみましょう。
もし、あなたが今まで、失敗や挫折から逃げる人だったら、今までの人生にたくさんの後悔があったことでしょう。そしてどうすれば、立ち向かえるようになるのか探し続けて、ここにたどり着いたのだと思います。
もし、あなたが失敗や挫折から学ぶ人なら、最近、今までの水準を大きく上回る失敗や挫折があったのではないでしょうか。そして、乗り越えるための力を奮い立たせるために、ここにたどり着いたのだと思います。
ここでは、心理学的な研究から明らかになっている、失敗や挫折から学ぶ人、逃げる人の違いを解説しています。そして、最も重要な点である「なぜ、ある人は失敗や挫折から学ぶようになり、ある人は逃げるようになるのか」という原因についての科学的根拠も示しています。
つまり、少なくとも、失敗や挫折を乗り越えられる人間になりたいと願っている方は、今後の人生を左右するほど、大きな学びと、具体的にどうすれば良いのかという判断指針・行動指針を得られることでしょう。
どうか、まずはじっくりご覧になってみてください。本稿が、これからあなたが、後悔のない生き方、誰かに誇れる生き方を送るために、少しでも助けになれば、これ以上嬉しいことはありません。
はじめに:2+5つの心理学的違いの根拠について
本稿では、コロンビア大学のクラウディア・M・ミューラーと、現スタンフォード大学心理学教授、キャロル・S・ドウェックらの研究『能力をほめることは、子供たちのモチベーションとパフォーマンスを低下させる』から得られた発見を紹介しています。
これは後のこの分野における数々の研究者にとって指標となっており、以後の心理学的発見の多くは、この研究をベースとして発展していると言えるほど、大きな影響力があるものです(被引用回数約1700回)。
この研究は、子供たちを能力をほめられたグループ(パフォーマンス・ゴール)と、努力をほめられたグループ(ラーニング・ゴール)、能力も努力もほめられていないグループ(比較グループ)に分けて、それぞれのグループに知能テストを受けてもらっています。そして、様々な状況におけるグループ間の認知や情動、振る舞いの違いを記録したものです。
この研究からは、失敗や挫折を乗り越える人、逃げる人の科学的根拠に基づいたメンタリティの違いを学ぶことができます。2+5つとしているのは、最初の1つと最後の1つは、違いというよりも、なぜそのような違いができるのか、という点についてのものだからです。
あえて、それらを含めているのは、それこそが、「どうすれば失敗や挫折を乗り越えられる人間になれるのか」という問題の回答である、という点で最も重要な発見だからです。それについては、最後の「まとめ」であらためて述べさせて頂いています。
なお、本稿では、「ラーニング・ゴール」「パフォーマンス・ゴール」という言葉が出てきます。それぞれの定義は次の通りです。
- ラーニング・ゴール:一貫してものごとに習熟し自分自身が成長することを最大の目標とする姿勢(失敗や挫折から学べる人)
- パフォーマンス・ゴール:自分の持って生まれた能力に不足がないことを示すことを最大の目標とする姿勢(失敗や挫折から逃げる人)
ラーニング・ゴールを「失敗から学ぶ人」、パフォーマンス・ゴールを「失敗から逃げる人」と置き換えて頂ければ、より理解しやすいでしょう。これらについて、詳しくは『ラーニングゴールとパフォーマンスゴールが振る舞いのパターンを作るメカニズム』でも解説していますので、併せてご覧頂くと、より理解が深まるかと思います。
それでは前置きはここまでにして本題に入りましょう。
1. 努力をほめるとラーニング・ゴール(失敗や挫折から学ぶ人)になる
まず、人のゴール選好(ラーニング・ゴールかパフォーマンス・ゴールか)は、ほめ方によって大いに影響され、顕著に異なっていきます(figure1a)。
簡潔に解説します。
実験では、知能テストの成績が良かったことに対して、能力をほめられたグループの子供たちの67%がパフォーマンス・ゴール(失敗から逃げる人)になりました。一方で、努力をほめられたグループの子供たちの中で、パフォーマンス・ゴールになったのは8%だけです。つまり、92%がラーニング・ゴール(失敗から学ぶ人)になったということです。
このことから、もし、子供たちや生徒たち、部下たち、自分自身をラーニング・ゴール(=挫折や失敗を乗り越えられる人)にしたいなら、彼らの達成をほめる時は、能力をほめるのではなく、その過程で払った努力をほめることが重要だということがわかります。
アトランタ・オリンピックの有森裕子選手はご存知でしょうか。彼女は、マラソン競技で、銅メダルを獲得され、現在も様々な分野で活躍されています。彼女は、当時、次のようにコメントして、日本中に感動を与えてくれました。
「メダルの色は、銅かもしれませんけれども……、終わってから、なんでもっと頑張れなかったのかと思うレースはしたくなかったし、今回はそう思っていないし……、初めて自分で自分をほめたいと思います」
wikipedia『有森裕子』より
このコメントが日本中の感動を読んだのは、この短い言葉の中に、彼女が努力して乗り越えてきたことの全てが凝縮されているからだと思います。
高い目標のために努力すること、そして、達成した時には、その努力をほめることは、こうも清々しいもので、様々な肯定的な要素が凝縮されたものなのです。これがもし、「自分の才能をほめたい」というニュアンスだと、感動を巻起こすことはなかったことでしょう。
ただし、ラーニング・ゴールやパフォーマンス・ゴールという言葉を初めて聞く人にとっては、どちらの方が良いかはわかりませんね。この研究では、さまざまな調査から、両者の心理学的な違いを具体的に記録しています。
それらの発見を次から見ていきましょう。
2. ラーニング・ゴールの人は失敗を努力のやり方を改める機会と捉える
ラーニング・ゴールの子供たちとパフォーマンス・ゴールの子供たちでは、何よりもまず、失敗に対する解釈が異なります。
ラーニング・ゴールの子供たちは、失敗は今までの努力の量や努力の方法が適切ではなかったことを教えてくれる機会と考えます。一方で、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、失敗は、自分が持って生まれた能力の不足を思い知らされる無慈悲な宣告だと考えます(Table1a)。
簡潔に解説します。
Table1aは、悪い成績を取った時の、能力グループ(=パフォーマンス・ゴール)の子供たちと、努力グループ(=ラーニング・ゴール)の子供たちとの解釈のしかたの違いです。
ラーニング・ゴールの子供たちは、パフォーマンス・ゴールの子供たちと比べて、失敗の原因を努力不足に求める傾向が非常に顕著です(11.96点 vs. 4.94点)。一方で、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、ラーニング・ゴールの子供たちと比べて、失敗の原因を持って生まれた能力の不足に求める傾向が顕著です(16.49点 vs. 9.78点)。
この失敗に対する解釈の違いは、非常に大きな情動の違いとして現れます。
ラーニング・ゴールの子供たちは、失敗に直面すると、努力して乗り越えようとしてモチベーションを奮い立たせます。つまり、失敗を成長の機会に変えようと生産的・創造的になります。パフォーマンス・ゴールの子供たちは、失敗に直面すると、自分の能力不足をさらに露呈することを嫌がって、モチベーションを損なってしまいます。彼らは努力をしても無駄だと思い込み、現実逃避的なパターンを見せます。
次にそのことを見ていきましょう。
3. ラーニング・ゴールの人は困難な状況でモチベーションを高めることができる
ラーニング・ゴールとパフォーマンス・ゴールでは、困難な状況に立たされた時のモチベーションが顕著に異なります(Table2a)。
簡潔に解説します。
まず「問題に取り組む粘り強さ」から見ていきましょう。これは、知能テストで落第点を取った後、つまり失敗を経験した後に、再度、同じテスト(問題は異なる)にチャレンジしようとする姿勢のことです。
結果、能力グループ(=パフォーマンス・ゴール)の子供たちは、努力グループ(=ラーニング・ゴール)の子供たちと比べて、粘り強さが顕著に低いことが分かりました(3.25点 vs.4.53点)。
つまり、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、一度失敗したことに対して、次は努力して乗り越えてやろうとは思わないということです。彼らは、失敗の原因を、「テストそのものに問題がある」としたり、「その科目に価値はない」というように現実逃避的に解釈しようとする傾向さえあります。また、自尊心を守るために、「自分の家は金持ちだ」とか「自分は人気者なんだ」というように、自らの失敗から視線を逸らす、という振る舞いも見られました。
一方で、ラーニング・ゴールの子供たちは、一度落第したテストに対して、「次こそ合格してやろう」と、自らのモチベーションを奮起させようとします。
次に、「問題を楽しむ力」を見てみましょう。これは、同じく、一度落第した知能テストへの再挑戦(問題は異なる)を楽しいと感じるかどうかです。結果、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、ラーニング・ゴールの子供たちと比べて、再挑戦を楽しむ力が、顕著に低いことがわかりました(4.11点 vs.4.89点)。
これらのことから、ラーニング・ゴールの子供たちはチャレンジングな状況においてモチベーションを高め、パフォーマンス・ゴールの子供たちはチャレンジングな状況においてモチベーションを下げると言うことができます。
なお、物事がうまくいっている間は、ラーニング・ゴールの子供たちもパフォーマンス・ゴールの子供たちも、モチベーションに変化がないこともわかっています(Table2b)。
このことは、とても重要です。全ての物事がうまくいくような人生はありえません。むしろ、人生の価値は、度々振りかかる困難な状況を乗り越えるかどうかで決まります。
失敗や挫折から逃げ続ける人間は、能力の面でも人間性の面でも、誰も立派とは思わないのは当たり前のことだと思います。こうした人間の中で、立ち回り方や上っ面の作り方だけ上手になっている人はいますが、彼らに対しては、内心軽蔑を隠せない方も多いのではないでしょうか。
一方、能力の面でも人間性の面でも、重厚さを感じさせる人間は、人生の様々な困難にくじけずに乗り越え続けてきた人です。極度にパフォーマンス・ゴールの人間は、そうした重厚な人間に対して嫉妬などのネガティブな感情を持ちます。しかし、大半の人は、そのような重厚な人間に憧れることでしょう。
繰り返しですが、前向きに生きようとする限り、人生は困難の連続です。そうした困難を乗り越えられず、場合によっては卑劣な振る舞いに帰結してしまうという点で、パフォーマンス・ゴールは人生に対して脆弱だと言えます。
4. ラーニング・ゴールの人は困難な状況でより高い成果をあげる
困難な状況におけるモチベーションの違いは、もちろん、実際の成績にも顕著に影響します(Figure2a)。
簡潔に解説します。
子供たちは、1セット目と3セット目のテストは同じ難易度のものを受けています。しかし、3セット目の直前の2セット目では、内容は同じで難易度が非常に高いテストを受けて、全員が落第点を取っています。
結果、能力グループ(=パフォーマンス・ゴール)の子供たちは、テストの難易度は1セット目と変わらないにも関わらず、3セット目の成績が平均0.92点(標準偏差1.53)低下していました。対照的に、努力グループ(=ラーニング・ゴール)の子供たちは、平均1.21点上昇(標準偏差1.63)していました。
この結果は、注目に値します。なぜなら、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、1セット目のテストで既に似たような問題を解いており、そのために、問題を解くスキルは強化されこそすれ、悪化はしていないはずだからです。このことから、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、失敗や挫折を経ると、前進することができないということがわかります。
一方で、ラーニング・ゴールの子供たちは、失敗や挫折のあとで、顕著に成績が上昇しています。彼らは、失敗や挫折を糧にすることができるのです。
つまり、困難な状況において、パフォーマンス・ゴールは非適応的な振る舞いを見せ、ラーニング・ゴールは適応的な振る舞いを見せるということです(参考:『適応行動と非適応行動に見られる認知、情動、振る舞いの具体的違い』)。
また、困難な状況で、二つのゴールが、こうも大きなモチベーションの違いを見せる理由については、『モチベーションが高い人と低い人の違いに関する心理学的な6つの発見』で解説していますので、ぜひ、併せてご覧ください。
5. ラーニング・ゴールの人は成長の機会を追い求める
失敗や挫折といった困難な状況における、現実逃避的な非適応的行動と、習熟指向の適応的な行動とはどのようなものでしょうか。その一例が、困難な状況における情報選好です(Figure3a)。
簡潔に解説します。
これは、テストで落第点を取った後、つまり失敗に直面している時、次のテストでより良い成績を取るための解き方の戦略が書かれた「ラーニング情報」と、他の人の平均点数が書かれた「パフォーマンス情報」の二つの情報のうち一つだけ得られるとしたら、どちらを選ぶか、ということを示したものです。
結果、能力グループ(パフォーマンス・ゴール)の子供たちの86%はパフォーマンス情報を選びました。努力グループ(ラーニング・ゴール)の子供たちでは、それはたったの23%でした。つまり、77%が学びを得られるラーニング情報を選んだのです。
つまり、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、自分が失敗すると、他の人も同じように失敗していることを確認したくなるのです。「自分だけが失敗したわけではないんだ」ということを確認して、自尊心を守ろうとするのです。興味深いのは、そのちっぽけな自尊心を守るために、成長の機会すら犠牲にするという点です。これは、まさに現実逃避的な非適応的行動です。
一方で、ラーニング・ゴールの子供たちは、自尊心を守るのではなく、成長につながる情報を選びます。彼らは、自尊心や優越感のために、成長の機会を犠牲にすることはありません。これが、習熟指向の適応的な行動の典型です。
6. ラーニング・ゴールの人は成長のために現実を受け止める
次に、もう一度自尊心の観点から見てみましょう。
ラーニング・ゴールの子供たちは、現実を受け止めることが自尊心を傷つけるとしても、決して目を逸らすことはありません。成長のためには、現実を受け止めることが必要だからです。一方で、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、自尊心を守るために、いとも簡単に現実逃避します(Figure4 )。
簡潔に解説します。
これは、他の子供たちに、自分のテストの点数をどのように伝えるか、を観察したものです。
結果、能力グループ(パフォーマンス・ゴール)の子供たちの38%が、自分の点数を過大申告していました。努力グループ(ラーニング・ゴール)の子供たちでは13%でした。平均すると、パフォーマンス・ゴールの子供達は、0.45点(標準偏差1.22)、実際の点数より高い点数を伝えていました。
このことから、パフォーマンス・ゴールの子供たちの方が、ラーニング・ゴールの子供たちと比べて、自尊心から、実際の自分よりよく見せようとする傾向が強いことが分かります。
成長のためには、現実を受け入れることが必要です。実際の自分より高く見せたところで、後で困るのは自分自身です。それにも関わらず、パフォーマンス・ゴールの子供たちは、現実逃避する傾向が、ラーニング・ゴールの子供たちと比べて顕著に強いのです。
7. ラーニング・ゴールの人は能力は伸ばすことができるものだと考える
それでは、ラーニング・ゴールの子供たちの現実を受け止める傾向と、パフォーマンス・ゴールの子供たちの現実逃避の傾向は、どこから来るのでしょうか。それは、『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観))』で解説している通り、能力に対する信念であることがわかっています。
具体的には、暗黙の知能観(能力は努力と訓練によって伸ばすことができるという信念)をもつ人はラーニング・ゴールになり、固定的知能観(能力はもって生まれたものであり変えられないという信念)をもつ人はパフォーマンス・ゴールになります(Figure5a)。
簡潔に解説します。
ここでは、それぞれのグループの子供たちの知能観スケールが測定されました。スコアが高ければ高いほど固定的知能観で、スコアが低ければ低いほど暗黙の知能観であることを表します。
結果、能力グループ(パフォーマンス・ゴール)の子供たちのスケールのスコアは平均4.24(標準偏差1.79)だったのに対して、努力グループでは平均2.19(標準偏差1.52)でした。
このことから、やはり、知能に対する信念が、ラーニング・ゴールかパフォーマンス・ゴールかの決定要因であることが再確認されたと言えます。
まとめ:失敗から逃げる人の末路と失敗から学ぶ人の恩恵
ここまで見てきたように、ラーニング・ゴール(一貫してものごとに習熟し自分自身が成長することを最大の目標とする姿勢)とパフォーマンス・ゴール(自分の持って生まれた能力に不足がないことを示すことを最大の目標とする姿勢)には、あらゆる面で大きな違いがあります。
その違いは、ものごとが順調にいっている時は現れません。困難な状況に直面した時に、顕著に現れます。人の本性は逆境でこそ表面化すると言いますが、まさにそういうことです。
それでは、どういう違いが現れるのか。それを7つ見てきましたが、ここでは結論として、最も重要な一点に絞ってお話ししたいと思います。それは「ラーニング・ゴールの人は失敗を成長の機会と考え、パフォーマンス・ゴールの人は失敗を能力不足を露呈する無慈悲な証明と考える」という点です。
これが非常に大きな違いを生み出します。こういう話があります。
一方は、口では見事なきれいごとを並べ立てますが、実際は、カネだけが行動基準になっているAさんがいます。Aさんは、経営者ですが、経費の使い方に公私のけじめがなく、高額報酬とは別に、毎月多額の経費(会社のお金)を使い飲み歩いています。
また、Aさんは、法律に明るくなかい出資者には、株も渡しませんし、お金も返しません。そんなAさんなので、当然、従業員から相当な不満が噴出しますし、出資者だけでなく、取引先からも訴訟ごとのトラブルを恒常的に引き起こします。そして、興味深いことにAさんは、そうなったら、従業員から出資者から取引先から逃げ続けるのです。そして、ある日、突然、代理人として弁護士が現れます。
健全であれば、こうしたトラブルを自己を反省する機会とし、責任ある一経営者として、真っ当な人間になるべく振る舞いを改めようとするでしょう。しかし、彼がとった行動は、自尊心と優越感を守るために、不都合なことを追求してくる者たちを排除し、弁護士を使って身を守り、おべんちゃらを言ってくる人間で周りを固めるというものでした。
こうしたことは、明らかに長期的には大きなトラブルの元凶となります。年に数回、卑劣な不正行為が暴かれる経営者のニュースを目にしますが、そういう人たちを見ると、彼らは極端にパフォーマンス・ゴールであり、現実を直視して成長しようとすることができず、本当に対処すべき問題から逃げ続けてきたのだな、と思います。こういうことが、パフォーマンス・ゴールの人間がたどる末路なのです。
他方で、決して物腰が柔らかいわけではないのですし、決して目立つわけではないのですが、一貫して、人格的な成長を追い求め、経費の使い方も公明正大なBさんがいます。
Bさんは、若かりし頃、会社経営のやり方がまずく、従業員一同から吊るし上げにあったことがあります。当時、「こんなに頑張っているのになんでわかってくれないんだ」と思ったそうです。結局、従業員は離れていき、たった3人で再出発しなければいけなくなりました。
そこから数年間は、自分の事業に気持ちが入らず、「なんで会社なんてやっているんだろう」と思い悩む日々だったそうです。しかし、Bさんは、その経験を決して無駄にせず、自己を反省する機会としました。
そして、多くの成功している偉大な先輩経営者から学び続けました。結果、時間はかかりましたが、今では、売上も利益も従業員の数も、毎年、過去最高を更新し続けています。Bさんは、従業員からの吊るし上げも、会社の縮小も、全て自分に問題があると捉え、努力して、そこから脱しようと挑戦し続けているのです。
目を覆いたくなるような現実から逃げず、全てを学びの機会として行動するラーニング・ゴールの人間とは、まさにこのようなものです。
ラーニング・ゴールを選ぶか、パフォーマンス・ゴールを選ぶかは、その人次第です。大事なのは、ゴールは自ら選ぶものである、ということです。この点に関して、当研究から得られる重要な学びの一つが、努力をほめると人はラーニング・ゴールになり、能力をほめると人はパフォーマンス・ゴールになる、ということです。
なお「能力は努力と訓練によってどこまででも伸ばすことができる」という信念のことを「暗黙の知能観」と言います。数々の研究によって、暗黙の知能観こそが、ラーニング・ゴール(失敗から学ぶ人)かパフォーマンス・ゴール(失敗から逃げる人)かの決定要因であることがわかっています(参考:『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観))』)。
そして、『モチベーションが高い人と低い人の違いに関する心理学的な6つの発見』で紹介しているように、暗黙の知能観は教えられることがわかっています。
つまり、失敗や挫折を乗り越える人間になるか、逃げる人間になるか、その結果としてどのような人生を送るかは、全て、自分自身が、どちらのゴールを選ぶかによって決まるということです。
それでは、次のページからは、研究の詳細について解説していきます。非常に長いので、ご興味がある部分をご覧頂ければと思います。
コメント