「事象」という言葉は確率論で登場する重要な概念です。簡単に言えば「出来事」のことなのですが、実はそれ以上に厳密な意味があります。そこで、このページでは、事象の意味を誰でも理解できるように詳しく解説します。そして事象について知っておくべき知識と公式のすべて(全部で 3 種類)も解説します。
このページの内容をご確認頂ければ、事象が何かがわかるだけでなく、その活用方法もばっちりと理解できるので、ぜひお役立てて頂ければと思います。
それでは始めましょう。
1. 事象とは
確率論において、「事象 “event”」とは、試行を行った結果として起こる出来事のことです。要するに、事象とは出来事のことです。ただし出来事なら何でもいいわけではありません。必ず「試行 “trial”」を伴ったものでなくてはならないのです。
1.1. 試行とは何か
それでは「試行 “trial”」とは何でしょうか。
試行は「同じ状態で何度も繰り返し観測することができて、結果がランダムに決まる行為」のことです。たとえばサイコロを考えてみてください。サイコロを振ると 1 ~ 6 の目がランダムに出ます。そしてサイコロは何度でも繰り返し振ることができます。
このことからサイコロを振るという行為は試行であると言えます。同じようにトランプのデッキからカードを 1 枚引いたり、ルーレットに球を回し入れるという行為も試行です。
1.2. 事象・全事象・根元事象の意味
さて事象とは「試行を行った結果、起こる出来事」でした。サイコロを振るという試行を行った結果、起こる出来事とは何でしょうか。それは以下の 6 つです。
- 1 の目が出る
- 2 の目が出る
- 3 の目が出る
- 4 の目が出る
- 5 の目が出る
- 6 の目が出る
このように、ある試行を行った結果、起こり得る出来事すべてのことを「全事象 “all events”」と言います。一方で起こり得る事象の最小単位(上に挙げた 6 つの個々の事象)のことを「根元事象 “elementary event”」と言います。これを視覚的に表したものが下図です。
さらに起こり得ない事象のことを「空事象 “empty event”」と言います。たとえばサイコロを振って 7 の目が出るということは起こり得ないので、これは空事象です。そして同時に起こり得ない事象のことを「排反事象 “exclusive event”」と言います。たとえば偶数の目が出るという事象と奇数の目が出るという事象は同時に起こり得ないので排反事象です。
それぞれの言葉の意味もあらためて以下にまとめておきます。
- 試行 “trial”:同じ状態で何度も繰り返し観測可能で、結果がランダムに決まる行為
- 事象 “event”:ある施行を行った結果、起こり得る出来事
- 全事象 “all events”:ある試行を行った結果、起こり得る出来事すべて
- 根元事象 “elementary event”:ある施行を行った結果、起こり得る出来事の最小単位
- 空事象 “empty event”:ある施行を行った結果、起こり得ない事象
- 排反事象 “exclusive event”:ある施行を行った結果、同時に起こり得ない事象
1.3. 事象と確率
さて、ここで任意の事象の確率は、任意の事象の場合の数を、全事象の場合の数で割ることで求められます。サイコロでは 1 の目が出るという事象の場合の数は 1 個です。そして全事象の数は 6 個です。そのため 1 の目が出る確率は次のようになります。
\[\begin{eqnarray}
\text{1の目が出る確率}
=
\frac{\text{1の目が出る場合の数}}{\text{全事象の場合の数}}
=
\dfrac{1}{6}
\end{eqnarray}\]
なお「場合の数」という言葉はなんだかヘンテコでモヤモヤする言い回しで、意味がよくわかりません。そこで『場合の数とは? ~ 樹形図の描き方と知っておくべき 2 つの法則 ~』で、この意味をわかりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。
2. 3種類の事象と公式
事象は集合と同じように扱うことができます。つまり、集合論における和集合 A ∪ B や共通部分 A ∩ B などの知識や公式をそのまま使うことができるのです。事象を駆使して、確率を算出するには、この知識がとても役に立ちます。
そこで、ここでは以下の 3 つの異なる種類の事象と公式について解説します。
- 積事象と乗法定理
- 和事象と加法定理
- 余事象と和集合の法則
なお集合については『集合とは?覚えておくべき 6 つの記号と 1 つの法則』で解説しているので、この機会にぜひ復習してみてください。
2.1. 積事象と乗法定理
まずは積事象と、その確率を求めるための乗法定理について解説します。
2.1.1. 積事象とは
積事象は、異なる事象 A と B が両方とも起こる事象のことです。これは集合における共通部分に相当します。
たとえば、ジョーカーを抜いた 52 枚のトランプから 1 枚のカードを引くとします。そして数字の〈 2 を引く〉という事象を A とし、スートの〈ダイヤを引く〉という事象を B とします。
事象 A と B が同時に起こるということは、引いた 1 枚のカードが、ダイヤの 2 であったということです。このとき、この〈ダイヤの 2 を引く〉という事象を、A と B の積事象と言い、A ∩ B と表します。
これをベン図を使って視覚的に表すと、下図のようになります。
以上が積事象です。
2.1.2. 乗法定理
積事象の確率は、以下の「乗法定理」で求めることができます。
乗法定理
\[\begin{eqnarray}
\text{ A ∩ B が起こる確率}
=
\text{ A が起こる確率}
\times
\text{ B が起こる確率}
\end{eqnarray}\]
そのため「ダイヤの 2 を引く」という積事象の確率は次のように求めることができます。
まず 52 枚のトランプのデッキには、同じ数字のカードは 4 枚含まれているので、事象 A の〈 2 を引く〉の場合の数は 4 個です。次にダイヤのスートは13枚あるので、事象 B の〈ダイヤを引く〉の場合の数は 13 個です。
以上のことから積事象 A ∩ B の確率は次のように求められます。
\[\begin{eqnarray}
\text{ダイヤの2を引く確率}
&=&
\text{2を引く確率}
\times
\text{ダイヤを引く確率}\\
&=&
\dfrac{4}{52}
\times
\dfrac{13}{52}\\
&=&
\dfrac{1}{52}
\end{eqnarray}\]
実際にトランプのデッキの中にダイヤの 2 は 1 枚であることから、この計算が正しいことがわかります。
2.2. 和事象
次に和事象と、その確率を求めるための加法定理について解説します。
2.2.1. 和事象とは
和事象は、事象 A と事象 B の少なくとも一方が起こるという事象です。「少なくとも一方」なので A と B が同時に起こる場合も含まれます。これは集合における和集合に相当します。
引き続き、数字の〈 2 を引く〉事象を A とし、スートの〈ダイヤを引く〉事象を B とします。このとき〈 2 、またはダイヤ、またはダイヤの2を引く〉という事象を和事象と言い、A ∪ B と表します。
これをベン図を使って視覚的に表すと、下図のようになります。
以上が和事象です。
2.2.2. 加法定理
和事象の確率は、以下の「加法定理」で求めることができます。
加法定理
\[\begin{eqnarray}
\text{ A ∪ B が起こる確率}
=
\text{ A が起こる確率}
+
\text{ B が起こる確率}
–
\text{ A ∩ B が起こる確率}
\end{eqnarray}\]
そのため、「 2 、またはダイヤ、またはダイヤの2を引く」という和事象の確率は次の計算で求めることができます。
\[\begin{eqnarray}
& &
\text{2、またはダイヤ、またはダイヤの2を引く確率}\\
&=&
\text{2 を引く確率}
+
\text{ダイヤを引く確率} \
– \
\text{ダイヤの 2 を引く確率}
\\
&=&
\dfrac{4}{52}
+
\dfrac{13}{52}
–
\dfrac{1}{52}
\\
&=&
\dfrac{16}{52}\\
&=&
\dfrac{4}{13}
\end{eqnarray}\]
2.3. 余事象
余事象は確率論において、事象の中でも特に重要な概念であり、実生活のさまざまな場面における確率を正しく導き出すために必要不可欠です。これについては、『確率とは?人生で得するために必ず知っておきたい7つのこと』で詳しく解説しているので、ぜひご確認ください。
ここでは余事象とその公式について簡潔に解説します。
2.3.1. 余事象とは
余事象とは、事象 A に対して、A が起こらないという事象のことです。これは集合における補集合に相当します。
引き続き、数字の〈 2 を引く〉事象を A とすると、〈 2 を引かない〉という事象を A の余事象と言い、\(\overline{A}\) と表します。これをベン図を使って視覚的に表すと、下図のようになります。
以上が余事象です。
2.3.2. 和集合の法則
余事象の確率は、以下の公式で導き出すことができます。
余事象の確率の公式
\[\begin{eqnarray}
\text{余事象}
\overline{A}
\text{が起こる確率}
=
1
\ –
\text{ A が起こる確率}
\end{eqnarray}\]
たとえば事象 A の「 2 を引く」 の余事象である 「2 を引かない」の確率は、以下のように求められます。
\[\begin{eqnarray}
& &
\text{2 を引かない確率}
&=&
1
\ –
[\text{2 を引く確率}]\\
&=&
1 \
–
\dfrac{4}{52}\\
&=&
\dfrac{48}{52}\\
&=&
\dfrac{12}{13}
\end{eqnarray}\]
余事象が重要なのは、A ∪ B ∪ C … と和事象に含まれる根元事象が増えていった場合の確率もこれで求められるという点です。言い換えると、和集合の法則は、上で述べた加法定理と全くおなじように扱うことができるのです。この場合は、以下のように、上の公式を少しいじって活用します。
和集合の法則
\[\begin{eqnarray}
\text{P(A ∪ B ∪ C ∪} \cdots \text{ ∪ Z)}
=
\
1
\
–
[
\rm{P}(\overline{A})
\times
\rm{P}(\overline{B})
\times
\rm{P}(\overline{C})
\times
\cdots
\times
\rm{P}(\overline{Z})
]
\end{eqnarray}\]
たとえば、先ほど事象 A の〈 2 を引く〉と B 〈ダイヤを引く〉 の和事象 A ∪ B 〈2、またはダイヤ、またはダイヤの 2 を引く〉確率は 4 / 13 と求めましたが、これは余事象を使って、このように求めることができます。
和集合の法則②
\[\begin{eqnarray}
\text{P(A ∪ B)}
&=&
\
1 \
–
[
\rm{P}(\overline{A})
\times
\rm{P}(\overline{B})
]\\
&=&
\ 1 \
–
\dfrac{48}{52}
\times
\dfrac{39}{52}\\
&=&
\ 1
\ –
\dfrac{1872}{2704}\\
&=&
\dfrac{832}{2704}\\
&=&
\dfrac{4}{13}
\end{eqnarray}\]
繰り返しになりますが、この余事象を使った和集合の法則がどれだけ重要であるかについてと、和集合の法則の証明については『確率とは?人生で得するために必ず知っておきたい7つのこと』で解説していますので、ぜひご覧いただければと思います。
3. 事象のまとめ
以上が事象です。意味を理解するだけでなく 3 種類の事象と、それらの事象の確率を求めるための公式もしっかりと理解しておきましょう。なお、ご覧のように事象を活用するには、似た概念である集合の知識が不可欠ですので、必ず確認するようにして頂ければと思います。
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