正則行列(「非特異行列」または「可逆行列」ともいう)とは、逆行列をもつ正方行列のことです。当ページでは、この正則行列について、誰でも直感的に、かつ確実に理解できるようにアニメーションを用いながら、わかりやすく解説していきます。
正則行列とは何かということが必ずわかるようになりますので、ぜひご覧ください。
1. 正則行列とは
冒頭でお伝えした通り、正則行列とは逆行列を持つ行列のことです。
それでは逆行列とは何だったでしょうか。正則行列について理解するために、この点について軽くおさらいしましょう。ある行列 \(A\)と、その逆行列 \(A^{-1}\) は以下の関係にあります。
行列と逆行列の関係
\[A^{-1}A=I\]
これは幾何学的には、以下のアニメーションで示している通り、\(A\) で線形変換した後に、\(A^{-1}\) で線形変換をすると空間が元に戻ることを意味します。
もちろん3次元になっても同じです。
このように、行列 \(A\) で線形変換した空間を元に戻す行列が逆行列 \(A^{-1}\) です。
しかしすべての正方行列が逆行列を持っているわけではありません。そのため、逆行列を持つ行列を「正則行列(「非特異行列」または「可逆行列」)」、持たない行列を「非正則行列(または「特異行列」)」というように呼び分けられています。
ポイント
正則行列とは、逆行列をもつ行列のこと。
2. 正則行列の条件
上で解説したように正則行列とは、線形変換した空間を元に戻す逆行列を持つ行列のことです。
それでは、正則行列と非正則行列は何が違うのでしょうか。
簡単に言うと、逆行列を持つ正則行列は、元に戻せるような形の線形変換をします。一方で、逆行列を持たない非正則行列とは、元に戻せないような形の線形変換をします。つまり、正則行列の条件とは、「元に戻せるような線形変換をする行列である」ということです。
この点について理解するには、反対に「元に戻せないような形の線形変換をする行列とはどのようなものなのか?」を考えるとわかりやすいです。これは簡単です。
まず2次元空間の場合では、空間を1次元に変換してしまうと、元の次元に戻すことはできません。これを示しているのが以下のアニメーションです。
そして3次元空間の場合は、空間を2次元や1次元に変換してしまうと、元の次元には戻せなくなってしまいます。以下のアニメーションでご確認ください。
このように、空間の次元数を下げてしまうような行列は、逆行列を持つことができません。つまり、逆行列を持つことができる行列とは、「空間の次元数を下げるような線形変換をしない行列」なのです。
これが正則行列の条件です。
ポイント
非正則行列は、空間の次元数を下げるような線形変換をする行列。正則行列は、空間の次元数を変えない線形変換をする行列。
3. 正則行列の判定
それでは、ある行列が、上で解説した条件を満たすかどうかを判定する簡単な方法はあるのでしょうか。もちろんあります。行列式を使えば良いのです。『行列式とは?意味と定義と求め方~行列式とは何か驚くほどよくわかる解説~』で解説している通り、行列式とは線形変換による空間の拡大倍率を示す値です。
もう一度、非正則行列の条件を思い出してみてください。これは空間の次元数を下げてしまうような行列でした。そして、空間の次元数を下げるということは、その行列の行列式の値がゼロになるということと同義なのです。
念のため、このことを視覚的に確認しておきましょう。
まず2次元では、行列式の値は、2つの基底ベクトルが作る平行四辺形の面積です。そして非正則行列で線形変換したときは、2つの基底ベクトルが平行になるので、その平行四辺形の面積はゼロになります。以下のアニメーションでご確認ください。
次に3次元空間では、行列式の値は、3つの基底ベクトルが作る立方体(平行六面体)の体積です。そして非正則行列で線形変換したときは、2つ以上の基底ベクトルが平行になるので、その立方体の体積はゼロになります。
以下のアニメーションでご確認ください。
このように、ある行列が正則行列かどうかは、その行列の行列式の値がゼロかどうかで判定することができます。具体的には、行列式の値がゼロ以外のときは、その行列は正則行列であり、行列式の値がゼロのときは、その行列は非正則行列であるということです。
ポイント
ある行列が正則行列のとき、その行列の行列式の値はゼロ以外になる。一方、ある行列が非正則行列のとき、その行列の行列式の値はゼロになる。つまり、ある行列の正則性は、行列式の値がゼロか否かを見ることで判定することができる。
補足:線形独立と線形従属
別の表現をするなら、正則行列とは、その行列の列ベクトル(または行ベクトル)を取ったときに、それらのベクトルがお互いに線形独立している行列のことです。一方で、非正則行列は列ベクトル(または行ベクトル)がお互いに線形従属しています。この点については、『ベクトルの一次独立とは?驚くほど理解できるアニメーション解説』で解説していますので、ぜひご覧になった上で考えてみてください。
4. 正則行列のまとめ
以上が正則行列です。あらためてまとめておきましょう。
まず、正則行列とは逆行列をもつ行列のことです。対照的に、逆行列をもたない行列は非正則行列と言います。
幾何学的には、正則行列とは、元に戻せるような形の線形変換をする行列のことで、非正則行列とは、元に戻せないような形の線形変換をする行列のことです。このことから、ある行列の正則性の判定は、その行列の行列式の値がゼロかそうでないかを計算することで行うことができます。
当ページが、線形代数の理解の助けになったとしたら嬉しく思います。
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